(1)日時: 2023年11月19日13時30分~16時30分
(2)場所: 北とぴあ(第2会議室)およびオンライン
(3)講演者: 新都心たざわクリニック院長 成相 直先生
東京医科歯科大学脳神経外科助教 原 祥子先生
(4)講演内容: もやもや病の医療 -歴史、現在そして未来へー
Part 1 成相 直先生
成相先生は、2021年に診療の拠点を東京医科歯科大学から新都心たざわクリニックに移され、先輩の田澤俊明先生とともにバイパス手術を行ってこられました。今後は外来診療を中心にやっていきたいと考えておられます。
成相先生の講演内容は以下のとおりです。
〇もやもや病と命名の歴史
〇もやもや病診断基準の変化
・診断の方法:「脳血管撮影」から「MRIとMRA」へ。
・診断基準:片側性についても、もやもや病と認定されるようになる。
・もやもや病の特徴について「内頸動脈の血管閉塞」から「内頸動脈を中心とする病変」と表現が変化。
〇もやもや病に対する血行再建術開発の歴史
血行再建術として側頭筋を植え込むEMSから、松島善治先生が開発された頭皮の血管を植え込むEDASが行われるようになった。
〇脳循環研究の始まり
手術後、側副血行の発達がある場合と、全く発達の無い場合があることがわかり、その違いを研究する脳循環研究が始まった。 血行路の発達は、脳血流だけてはなく酸素供給逼迫度や小動脈の拡張度が関係していることがわかってきた。
〇脳血流計測方法の進歩
・計測方法の進歩は、患者の負担を軽くし、もやもや病の診療を以前より楽にしてくれた。
・クスリや放射線の使用⇒造影剤を使用したDSC-MRI⇒造影剤なしのASL-MRI(原先生のご専門)
・ASL-MRIにより間接血行再建術後の経過を調べたところ2週間位で有意な循環改善していることがわかった。
〇虚血発症もやもや病への間接血行再建術の運用
・間接血行再建術というのは、血管の圧の低下があるところに血管を作るということが明らかになった。
・脳循環の計測をして血流の悪いところに、EDAS、EDPS(前方)、EDPS(後方)を組み合わせて施術を行っている。
〇出血型のもやもや病における間接バイパス手術
・「JAM Trial」の結果が明らかになった2014年以降、出血型にはSTA-MCAバイパスを行っている。
・STA-MCAバイパス後、過還流が最大の問題。
・間接血行再建術、直接血行再建術、術後それぞれ注意すべき点がある。
・出血型のもやもや病は、小児と成人では病態が異なる。
〇無症候性もやもや病
・現在は無症候だけれど出血リスクの高い血管を持つ患者に対しその血管の負担を減らすためのバイパス術が行われるようになる可能性はある。
Part 2 原 祥子先生
原先生は医科歯科大学でご教鞭を執っておられ、もやもや病の専門家でいらっしゃいます。
原先生の講演内容は以下のとおりです。
・どうしてもやもや病になるの?
・妊娠・お産は問題ない?
・患者さんの長期経過
・セカンドオピニオンについて
もやもや病の原因は不明ですが、遺伝的要因や甲状腺機能亢進症などの関連が指摘されています。予後はバイパス手術後に脳機能の改善が見られますが、小児ではワーキングメモリーの低下が残ることがあります。また、成人になってからも、脳卒中や脳出血の再発のリスクがあります。成人では病気の進行がゆっくりですが、高血圧や糖尿病などの生活習慣病が症状を悪化させることもあり、一生にわたる通院治療が必要です。
出産はもやもや病患者の方がリスクは高くなりますが、医科歯科大学での通算102回のうち、出産したお子さんは全員が健康に生まれており、お母さんも小さな問題を除きほぼ全例で無事に退院されます。
難病支援センターでは、原先生が参加した「もやもや病就学支援マニュアル」を公開しています。
https://www.nanbyou.or.jp/entry/411
医師による意見の違いが大きい病気ですので、セカンドオピニオンを受けることで初めてわかることもあります。
もやもや病の研究は、日本脳卒中学会などを中心に進められています。これらの研究によって、病気の発症や進行に関する新たな知見が得られることが期待されます。患者さんのより良い未来のために、研究を継続していきます。
講演後の質問コーナーでは、もやもや病の治療法や予後などに関するものが多くありました。講演者の先生達は、丁寧に回答されました。
(5)会場内の様子、雰囲気
会場、オンラインともに問題が起こることはなく、参加者の皆様は整然とご覧になっていらっしゃいました。ハイブリッド開催でのデメリットは特段なさそうです。
(6)所感
原先生の講演は終始、たいへん明晰で、医学的な研究成果から患者さんの生活に寄り添った内容まで、素晴らしい真摯さでした。日本中のもやもや病患者さんに聴いて頂きたいと思いました。次回の講演を楽しみにしています。