・講演名
第39回 もやもや病の患者と家族の会 関東ブロック集会・医療講演会
・開催日時
令和6年11月17日
・開催場所
TKP神田ビジネスセンター5階(東京都千代田区、神田駅)及びオンライン
・講師名
虎の門病院 脳神経外科 原貴行先生
・参加人数
現地約25名、オンライン約25名の合計50名ほど。
・講演の内容
もやもや病とは内頚動脈の病気であり、前方循環についての病気である。国内での新規発症は年間400人ほど。東アジアに非常に多く、東南アジアはあまりいない。ただ、東南アジアは日本と違ってMRIが非常に少ないので、もしかしたらもう少しいるのかもしれない。アメリカにも意外といる。日本では1万人に約1人、家族内発症は15%程度である。診断基準は時々変わるが、主にMRI/MRAでの脳血管の所見から診断する。発症時の症状は、虚血型の症状が60%くらい。
脳の機能のうち、前方循環に関係する病気であるため、前方に関係ある運動障害や言語障害、感覚障害といった症状が生じることがある。
もやもや病に非常に関連が強い遺伝子変異が存在するが、それだけが原因というわけではなく複合的な要素があるため、それほど遺伝だけを気にしすぎることもない。
小児もやもや病の場合、一生にわたって経過観察をしていく必要がある。
成人もやもや病の場合、非手術例の約20%で病気が進行する。無症状のもやもや病では脳卒中発症率が1.4%/年人。
必要な検査として、頭部CTは有用でなく、頭部MRI/MRAが診断にとても重要。MRIは脳梗塞、出血の有無が分かる。MRAでは脳血管の狭窄が分かる。治療方針の決定には、脳血流検査(SPECT)等が用いられ有用である。被曝があるが、頭部CTと同程度であるためそれほど大きな負担があるわけではない。
最終的には脳血管撮影(カテーテル検査、アンギオ、DSA)を行うが、最近は2次元の画像だけではなく、3次元の映像が作れるようになっている。
もやもや病の病態は、原因が解明されていないが治療法がないわけではない。遺伝病とも決まっていない。成人小児など多様な種類がある。
治療の方法としては、内科的治療(薬物療法)と、外科的治療(手術療法)があるが、内科的治療は一時的なもので、外科的治療を主に使用する。外科的治療では複合バイパスや直接バイパスが主に行われている。
手術適応にも、絶対適応(圧倒的に手術した方がよい)と相対適応(どちらかと言えば手術した方がよい)がある。
手術には直接バイパスと間接バイパス(及び両方を複合した複合バイパス)があるが、施設・術者によってどちらを良いとするかについての考えが異なる。原先生のお考えとしては、大人は直接バイパスまたは複合バイパスを推奨している。大人の間接バイパスはあまり結果が出ない。小児の場合には間接バイパスだけでも良い場合がある。ただ、間接バイパスは即効性がない。原先生のお考えとしては、小児でも可能であれば複合で直接バイパスも行う方がよい。
最近は画像の進化によって、直接バイパスの可能性が事前に検討しやすくなっており、直接バイパスの成績向上に役立っている。虎の門病院では、術中4D DSAにより、術中にバイパスの還流領域を確認でき、バイパストラブルの早期検知ができるという。
手術後のケアとして、術後一晩はICU(に準じた部屋)で経過を見る。小児では泣かないように一晩鎮静することが多い。乳幼児の直接バイパスでは術後輸血が必要となることが多い。術後10日前後は過還流に注意する。左側の直接バイパス術後に20-30%で言語障害が一時的に出現する(数日後に始まり10日前後に改善することが多い)。創部の癒合不全に注意し、抜糸は遅めにする。
手術の効果に関しては、大規模な統計データは存在しない。ランダム化研究が行いにくい。観察研究から、手術により脳血管バイパス手術による脳血流改善の効果は認められている。
先生の私見としては、手術はできれば直接バイパスを受けた方が良い。
もやもや病の慢性期治療
小児はひどい頭痛があると手術で治る可能性あり。成人の頭痛で重要なことはトリプタン製剤(偏頭痛の薬)を使ってはいけない点。市販の頭痛薬はOKだが乱用は×。市販薬の効果が乏しければ片頭痛の注射薬を検討。ただ、難病指定がないと高価で、月13000円くらいかかってしまう。あとは漢方薬(釣藤散)も有効なことがある。
高次脳機能障害については、色々な診断方法によって判断をするが、本当に色々な障害の形がある。日常生活・社会生活に困りごとがあるかどうかがスタート地点であり、それと関連する病気(病巣)があるか、それが各種心理検査で証明できるかという手順で診断ができることになる。難しく、グレーゾーンがある。これは福祉サービスを受けるために重要で、障害者手帳を受けるには色々な条件がある。
高次脳機能障害の治療においては、言語療法、作業療法など色々な方法がある。復職・復学支援の窓口が各都道府県にあるので、こうした窓口の利用が推奨される。
失語症は比較的治りやすい症状で、リハビリが積極的に推奨される。失語症以外では、最近は半側空間無視に対して電気刺激を行うリハビリの効果が認められている。この電気刺激の方法は、正常な方の半側に刺激を行うことで休ませ、問題がある方の半側で努力してもらうという方法である。また、運動療法もとても有効である。体操療法、運動療法によって身体の代謝を上げて有酸素運動をすることも高次脳機能障害に効果がある。
もやもや病特有の問題として、MRI上で脳梗塞や脳出血がないのに高次脳機能障害を呈する人がいる。MRI画像がきれいだとしても、実際には高次脳機能障害がある場合がある。そのことで障害者手帳を申請するうえで難しい場合がある。この問題を解決すべく、COSMO-JAPAN研究が行われている。イオマゼニール(IMZ)を用いたSPECTを行ったことで、前頭葉内側面シルビウス裂周囲の前頭葉に集積低下を認めた。これは該当箇所で神経細胞障害が起こっていることを示している。ただしイオマゼニールSPECTは、てんかんの患者さんに使われる検査で、もやもや病の患者さんでは保険適用がない。そのため、今後保険適用を目指している。
小児の患者が多く、復学の問題があるが、色々な支援制度がある。
質問1-1、ADHD様の症状があることはもやもや病と関係があるか。→ADHDは生まれた時からの症状なので関係はないと思われる。ただ、ADHD治療に用いられるメチルフェニデートやアトモキセチンなどの効果がある可能性もあるが保険外適用になる。
質問2、失語症の回復過程を知りたい。→回復としてはあくまで一般論として、前方の病変、基底核(深部)、視床病変は早期回復する。後方の病変は3年ほどかかる場合がある。
質問3、高次脳機能障害は完治しますか?→長くかかることもある。
質問4、もやもや病の娘の大学受験に向けて不安があります。手術後もダメージが残ることはありますか?→可能性はある(MRIで分からないこともある)。
もやもや病になっても、全く脳に何のダメージもない人もいますか?→いる
質問6、子供の勉強の暗記が苦手になった場合の工夫→ハンドブックに詳述
質問7、いつまで通院すべきか→ずっと
質問8、高次脳機能障害の復職の際の注意点や工夫点→見えないことが自覚できないので、復職先へ理解を求めることや、無理をしない、させないことが大事。音声読み上げソフトを利用することや、右から左方向に読み上げながら見直す工夫をするなどの方法がある。
質問9、高次脳機能障害で苦しんでいる。このまま認知症になるのか。→発症から1~3年以上経過している場合は完治が難しいかもしれない。しかし、記憶障害があっても必ずしも認知症になるわけではない。
質問10、寝不足はもやもや病と関係があるか。→一般的には関係がないと言われている。
質問11-1、虚血型と出血型は違う種類か。→同じ病態だと考えられている。
質問11-2、虚血型が出血型に変わることはあるか。→ある
質問12、飛行機に乗ったり外国で過ごしたりすることはできるか。→できる
・会場内の様子、雰囲気
会場内では参加者が皆さん熱心に原先生のお話に耳を傾けていて、メモを取りながら聴いている参加者も多くいらっしゃいました。
・所感
原先生の講演は大変分かりやすく、特に脳の血管の解剖学的な解説など、図解が多く理解しやすい内容だったことがとても印象的でした。一方で、最新の学術研究の知見を含む盛りだくさんの内容でもあり、初学者にとっても一定の知識がある人にとっても、大きな刺激になったかと思います。中でも、虎の門病院で行っているという術中4D DSAの写真は興味深く、術中に脳血流の状態を三次元的に把握できるのは素晴らしい技術だと感じました。デジタル技術の進歩により、もやもや病の診断と治療が進むことに期待が高まりました。
以上